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メイ.サートン著 武田尚子訳『夢見つつ深く植えよ』みすず書房.1996年 世間の喧騒や情報の氾濫を逃れて、静かな未知の土地で新しい出発をしたいというのは、現代人の大半が一度は抱く夢ではないだろうか。それを実現させたサートンは、広大な土地を手なずけ、根を張り、新しい住まいを創造のねぐらにするための不安と興奮に満ちた明け暮れを、細やかに、のびやかに歌い上げる。 これはニューイングランドの片田舎の、まだまだ未開の土地の残されたコミュニテイを背景にくりひろげられる、自然と人間の交響詩だ。中でも農夫、パーリーコールや、時折手助けに来るミルドレッド.クイグリーなど、きびしい風土に生え抜きの屈強で心優しい人たちとの交流は、知識人の世界しか知らなかったサートンにとって、目を見張る新しい息吹だ。作品への祈りをこめ、中年を過ぎた人生に花を開かせようと、万物のいのち芽吹く春を夢見つつ、サートンは今日も土深く球根を植える....